reCAPTCHA を入れているのに営業メールが減らないのは、設定を間違えているからではありません。reCAPTCHA が見ているのは「送信者が人間か、自動化されたプログラムか」であって、書かれている用件ではないからです。人が手で書いて送る営業メールは、reCAPTCHA から見れば正常な人間の送信です。この記事は、すでに reCAPTCHA を設置している中小企業の問い合わせ担当者・Web 担当者に向けて、reCAPTCHA が実際に何を判定しているのか、実データで何が残るのか、そして何を足せばよいのかを整理します。結論として、reCAPTCHA は外すべきではありません。足りないのは「内容で判断する層」です。
reCAPTCHA が判定しているのは「人間らしさ」であって、用件ではありません
reCAPTCHA はフォームの本文を読んでいません。判定しているのは送信の挙動やブラウザ環境から推定される「自動化らしさ」です。
バージョンによって、その推定の見せ方が違います。Google の公式説明では、v2 チェックボックスは「私はロボットではありません」のクリックに対して、そのまま通過させるか、人間かどうかを確かめる追加のチャレンジ(画像選択など)を出すかに分かれます。v2 Invisible はチェックボックスを表示せず、サイト上の既存のボタンが押されたときに直接呼び出されます(reCAPTCHA のバージョン比較)。v3 はユーザーに何もさせず、スコアだけを返します。
Google の公式ドキュメントによれば、v3 のスコアは 0.0〜1.0 の範囲で、「1.0 is very likely a good interaction, 0.0 is very likely a bot」とされています(reCAPTCHA v3 ドキュメント)。既定のしきい値としては 0.5 が推奨され、それを下回った送信をどう扱うかはサイト側の判断に委ねられています。つまり v3 は「弾く仕組み」ではなく「疑わしさの目盛りを渡す仕組み」です。
いずれのバージョンでも、判定材料に「本文に何が書いてあるか」は入っていません。
| reCAPTCHA(v2 / v3) | 内容ベースの選別 | |
|---|---|---|
| 判定する対象 | 送信者が自動化されているか | 書かれている用件が何か |
| 主な材料 | 操作の挙動・ブラウザ環境・IP など | 本文・社名・入力項目の整合性 |
| 得意なもの | プログラムによる大量投稿 | 人が手で書いた営業・売り込み |
| 苦手なもの | 人が手で送る営業 | 単独ではボットの物量に弱い |
この表のとおり、両者は競合ではなく守備範囲が違います。片方だけでは穴が残ります。
実データでは、reCAPTCHA はきちんと仕事をしていました
Hajik が分析した実フォームデータでは、明らかなボット投稿は事実上ゼロでした。reCAPTCHA は「効果がない」のではありません。
対象は、Hajik が分析した、美容商社(国内最大手・上場)の実フォームデータです。問い合わせ・採用・汎用の 3 種類のフォーム、合計 1,894 件、約 20 か月分。いずれも reCAPTCHA v3 を通過した送信です。
その中に、ランダムな文字列だけの投稿、リンクを並べただけの投稿、日本語のフォームに英語の定型文だけを貼った投稿といった「一目でボットとわかるもの」はほとんど見当たりませんでした。ボット除去という一点においては、reCAPTCHA は期待どおりに機能していたということです。
「入れているのに減らない」という体感は、この事実と矛盾しません。減ったもの(ボット)は最初から担当者の目に触れず、減らなかったもの(人が書いた営業)だけが受信箱に残るからです。
この比率は実測できています。稼働中の 17 サイト・4,491 件を集計したフォーム営業メール実態調査 2026では、機械的な自動送信は 13.9% にとどまり、48.1% は人が手で書いた営業でした。入口で止まる層より、通過してくる層のほうが多いということです。フォームに届くものがボット・半自動・人が書いた営業の 3 層に分かれる整理はスパムとは何かで解説しています。
なお、業種・規模・フォームの性格によって比率は大きく変わります。以下の数字はあくまで一社・一時点のサンプルとして読んでください。
同じデータの裏面:通過した中身の 12.9〜73.1% が営業でした
reCAPTCHA を通過した送信のうち、営業と判断できるものはフォームの用途によって 12.9% から 73.1% までばらつきました。
| フォームの用途 | 件数(期間) | 営業と判断できるもの | 本物らしいもの | 判定が難しいもの |
|---|---|---|---|---|
| 問い合わせフォーム | 534 件(20 か月) | 12.9% | 54.9% | 32.2% |
| 汎用フォーム | 1,211 件(18 か月) | 56.2% | 16.5% | 25.2% |
| 採用フォーム(全体) | 149 件(18 か月) | 65.8% | — | — |
| 採用フォーム(中途のみ) | — | 73.1% | — | — |
いずれも簡易なヒューリスティックによる分類で、厳密なラベル付けではありません。それでも傾向ははっきりしています。
問い合わせフォームは平常月で 2〜3 割が営業ですが、12〜1 月には 0% 近くまで落ちる月もありました。一方、採用フォームは恒常的に 50% を超え、月によっては 78〜90% に達します。閑散期がほとんどないのが特徴です。営業の内訳は、人材紹介・採用支援、Web/SEO・広告、営業代行、動画制作、コンサルティングといった領域に集中していました。
そして見落とせないのが、右端の「判定が難しいもの」が 25〜32% を占めている点です。人が読んでも営業か本物か即断できない層が、常に 4 分の 1 は存在します。ここを機械に決めさせようとすると事故が起きます。
しきい値を上げる対処は、営業に効かず本物を落とします
v3 のしきい値を 0.5 から 0.7 や 0.9 に引き上げても、営業メールはほとんど減りません。営業担当者は実在のブラウザから人が手で入力しているため、そもそも高いスコアで通過するからです。
この段階で reCAPTCHA そのものを別の仕組みに置き換えたくなりますが、置き換えたい理由が「営業メールが減らない」なら、代替を探しても解決しません(reCAPTCHA の代替を探す前に、置き換えたいのがどの機能かを切り分ける)。
しきい値を上げたときに先に落ちるのは、別の人たちです。会社の共有 IP から送っている人、社内規定で古いブラウザを使っている人、プライバシー保護の拡張機能を入れている人、モバイル回線から送っている人、支援技術を使っている人。いずれも本物の問い合わせ側に多く含まれます。
Hajik の設計では、これを最優先の禁忌としています。営業メールを 1 通見逃すコストと、本物の問い合わせを 1 件ブロックするコストは釣り合いません。前者は削除するだけで済みますが、後者は見積依頼や採用応募がそのまま消え、しかも消えたこと自体に気づけません。迷ったら本物として扱う。これが判定を設計するうえでの出発点です。
同じ理由で、「短い文章は弾く」「英語が混ざっていたら弾く」「海外からの送信は弾く」といったルールも避けるべきです。実データを見ると、本物の問い合わせはむしろ短い傾向があります。「この商品の在庫はありますか」といった一行の送信が珍しくありません。短さはスパムの証拠になりません。
reCAPTCHA の上に、内容を読む層を重ねる
現実的な解は、reCAPTCHA を外さずにその上へ 1 層足すことです。役割を分けて重ねます。
第 1 層は自動化の除去です。ここは reCAPTCHA が担当します。実データが示すとおり有効に機能しているので、置き換える理由がありません。第 2 層は基本チェックです。極端な連続送信のレートリミット、入力項目の整合性(会社名欄に URL だけが入っているなど)を見ます。第 3 層が内容の判定です。日本語の文面を読み、誰が何を求めて送ってきたのかを判断します。すでに Akismet を併用している場合も、コメントスパム由来の仕組みが日本語の営業メールにどこまで届くかはAkismet が問い合わせフォームで効く範囲で整理しています。
第 3 層で重要なのは、キーワードの一致で決めないことです。「突然のご連絡失礼いたします」「貴社サイトを拝見しました」「ご紹介可能な人材がおります」といった営業に頻出する言い回しは実データからも確認できますが、これらを機械的な NG ワードにしてはいけません。本物の問い合わせも「貴社サイトを拝見しました」から書き始めます。見るべきは単語ではなく、そのサイトでしか成立しない固有名詞(商品名・型番・納期・店舗名)が入っているか、送り手が何かを求めているのか提案しているのか、という文脈です。
同じ理由で、送信元の企業名でブラックリストを作るのも避けます。同じ会社からの連絡でも、受け手の状況によって営業にも本物にもなり得るためです。
Hajik はこの第 3 層を担当するサービスです。サイトに script タグを 1 行追加するだけで、送信された瞬間に日本語の文面を判定します。WordPress プラグインの導入も、DNS 変更も、フォームの送信先変更も必要ありません。効果は 99%+ の遮断で、残り約 1% は人が判断する前提です。フォームの内容はブラウザ内で暗号化して保存するため、保管データを Hajik 側が復号することはできません。ただし判定の瞬間だけは、精度のために内容をそのまま AI に渡しています(クレジットカード番号・マイナンバー・銀行口座・パスポート番号・健康情報の 5 種はブラウザ内で除去してから送ります)。
reCAPTCHA との役割の違いはハジクと reCAPTCHA の違いで詳しく比較しています。ボット対策そのものの基本はフォームのボット対策、営業メールが届く仕組みは営業メールが増える理由にまとめています。
よくある質問
reCAPTCHA は外してもいいですか
外さないことをおすすめします。実データが示すとおり、ボット除去の部分では有効に機能しています。外すと、いま目に触れていない自動投稿が戻ってきます。内容判定は reCAPTCHA の代わりではなく、上に重ねるものです。
v3 から v2 のチェックボックスに戻せば営業メールは減りますか
減りません。チェックボックスも画像選択も、人が座って操作すれば通過します。営業メールを送っているのは実際に人です。逆に、本物の問い合わせをする人にだけ操作の手間が増え、フォームの離脱率が上がる副作用が出ます。
v3 のスコアを営業メールの判定に流用できますか
難しいです。スコアは自動化らしさの指標であり、用件の性質とは無関係です。人が手で送った営業メールは高スコアで通過し、共有 IP や古い環境から送った本物の問い合わせが低スコアになることもあります。営業判定に使うと、原則として逆の結果を招きます。
AI に内容を渡すのは情報漏えいになりませんか
保管と判定は別のレイヤです。保管されるデータはブラウザ内で暗号化され、Hajik 側では復号できません。一方、判定の瞬間だけは内容を AI に渡します。マスクすると、申込内容や選択項目が読めず本物の申込が一律「要確認」になってしまうためです。その代わり、機微情報 5 種はブラウザから出る前に除去しています。
判定が難しい 25〜32% はどうすればいいですか
人が見る前提で運用を組みます。AI が処理できるのは 8〜9 割で、残りは人間が判断するという設計にしておくほうが、無理に自動化して本物を落とすより安全です。具体的な振り分け手順は問い合わせフォームの営業メール対策(実務ガイド)にまとめています。
明日やること
- 自社フォームの直近 1 か月分を開き、営業・本物・判断できないの 3 つに手で分けて件数を数える。判断できないものが何割あるかを把握する。
- reCAPTCHA の設定画面を開き、しきい値を上げていないか確認する。上げていたら 0.5 に戻す(キーの取得からしきい値の決め方までの手順はreCAPTCHA v3 の設定方法にまとめています)。
- 採用フォームと汎用フォーム(資料請求など)を別々に数える。用途によって営業比率は大きく違うため、まとめて見ると対策を誤ります。
- 内容判定を入れるなら、最初の 2 週間はブロックせずラベルだけ付ける観察モードで回し、本物が誤って弾かれていないことを自分の目で確認してから切り替える。
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