問い合わせフォームから届いた通知は、受信箱に直接届く迷惑メールとは見分け方が根本的に違います。差出人が自社になるため、ドメインでは判断できないからです。自社サイトのフォームを運用していて、届いた1通を営業か本物か決めなければならない窓口担当・Web担当向けに、見る順番と迷ったときの扱いだけを書きます。
フォーム経由は「差出人」で判断できない
受信箱に直接届く迷惑メールの見分け方は、フォーム経由の通知にはほぼ通用しません。手がかりの置き場所が違うためです。
| 見る対象 | 受信箱に直接届くメール | フォームからの通知メール |
|---|---|---|
| 差出人ドメイン | 送信者のドメイン。判断の主役 | 自社の送信ドメイン。全件同じで使えない |
| 送信ドメイン認証 | SPF・DKIM の結果が手がかりになる | 自社が送っているので全件パスする |
| リンク・添付 | 危険物の有無が判断材料 | 多くは本文中のURLのみ。危険物はほぼない |
| 本文の書き手 | 差出人本人 | 差出人本人。ただし名乗りは自己申告 |
| 実質の手がかり | 差出人 → 用件 → リンク | 記入内容の中身だけ |
メールの書式を定めた RFC 5322 は「テキストメッセージの構文のみを規定する」もので、From に書かれた内容が正しいことを保証する仕組みは持ちません(RFC 5322)。受信箱側ではその弱点を SPF・DKIM で補えますが、フォーム経由の通知は自社サーバーが自社宛に送るので全件が認証を通ります。フォームの入力欄に書かれた会社名・メールアドレス・電話番号も、誰も検証していない自己申告です。判断材料は中身しか残りません。
受信箱側の入口(受信フィルタや管理者設定)の手当ては会社の迷惑メール対策にまとめました。ここから先はフォーム経由だけの話です。
見る順番を4つに固定する
順番を固定すると速く、担当者によるばらつきも減ります。フォーム経由では次の順で見ます。
| 順 | 見るもの | 具体的に | 5秒での判断 |
|---|---|---|---|
| 1 | 用件が自社固有か | 本文に型番・商品名・店舗名・納期・ページ名があるか | 自社サイトでしか成立しない語があれば本物寄り |
| 2 | 名乗りの整合 | 会社名・メールドメイン・電話番号・署名の関係 | 3つが同じ会社を指しているか |
| 3 | 文面の型 | 冒頭2行と結びの1行 | 定型の営業テンプレートに一致するか |
| 4 | 送信のされ方 | 同一送信元の反復、記入項目の食い違い | 同じ相手から繰り返し届いていないか |
1で本物と決まれば、そこで終わりです。逆順にすると、よく書けた営業文面ほど「丁寧だから本物」と判断してしまいます。
営業と本物を分ける最大の差は、丁寧さではなく「自社にしか当てはまらない語」の有無です。本物の問い合わせは、その会社のサイトを見ないと書けない語を含みます。型番、店舗名、求人票の職種名、納期、見積の数量。逆に、貴社・御社・業界という語だけで本文が成立するなら、宛先を差し替えても同じ文章が使えるということです。
名乗りの整合は、記入項目どうしのつじつまを見ます。会社名は法人なのにメールアドレスがフリーメール、署名の会社名と本文の社名が違う、電話番号の市外局番と所在地が合わない。ひとつでは決め手になりませんが、2つ以上重なると精度が上がります。この見方はなりすましメールの対策で詳しく扱っています。
なお、フリーメールというだけで弾くのは危険です。個人事業主も、退職前の転職希望者も、フリーメールで問い合わせます。
手順3:営業の文面は冒頭2行と結びに癖が出る
営業文面はテンプレート由来なので、冒頭2行と結びに強い癖が出ます。
Hajik が分析した、美容商社(国内最大手・上場)の実フォームデータ(3種類のフォーム・合計 1,894 件・約20か月分)で目立ったのは、人材紹介・採用支援、Web/SEO・広告、営業代行/テレアポ、動画制作、コンサルの5業種でした。頻出フレーズはおおむね次のとおりです。
- 冒頭:「突然のご連絡失礼いたします」「貴社サイトを拝見しました」「求人を拝見しました」
- 中身:「ご紹介可能な人材がおります」「理論年収の◯%」「アクセス数」「検索順位」「業界相場の1/3」
- 結び:「ご提案させていただきたく」「お役に立てるかと」「お時間を頂戴」「無料で診断」
混ざる比率はフォームの性格で大きく変わります。同じデータで、問い合わせフォームは営業(確度高)12.9%・本物らしい 54.9%・判定困難 32.2%、汎用フォームは営業が合計 56.2%、採用フォームは 65.8%(中途採用に限ると 73.1%)が人材サービスの営業でした。簡易ヒューリスティックによる分類で、業種・規模・フォームの性格によって比率は大きく変わります。あくまで一社・一時点のサンプルとしてお読みください。
いずれも reCAPTCHA v3 を通過した送信で、明らかなボットはほぼ残っていませんでした。ボットを落とす役割では機能しており、人が書いた営業を見分ける道具ではない、という違いです。
手順4:送信のされ方は、1通だけ見ても分からない
1通で決まらないときは、同じ送信元の履歴を見ると分かることがあります。
同データでは、同じ企業が同一フォームに10件以上送っている例が複数ありました。反復は強い手がかりです。ただし、そこから「この会社は営業」という恒久ルールを作るのはやめたほうがよいと考えています。同じ会社から、営業と本物の引き合いが両方届くことは実際にあるからです。判断は送信元ではなく1件ごとに戻します。
件数の急増も、そのままでは判断材料になりません。展示会、メディア掲載、SNSでの話題化のあとは正常に増えます。増えたこと自体ではなく、増えた中身を見ます。
迷う3類型と、「迷ったら本物扱い」の運用
4つの手順で決まらないものは、経験上ほぼ次の3つに収れんします。
| 類型 | 見え方 | よくある誤判断 | 正しい寄せ方 |
|---|---|---|---|
| A 短い本物 | 「この商品の在庫はありますか」の一行だけ | 内容が薄いのでスパム扱い | 固有名詞が1つでもあれば本物へ |
| B 丁寧な営業 | 敬語も署名も自然で長い | 丁寧なので本物扱い | 自社固有の語がなければ営業へ |
| C 混ざった1通 | 見積依頼のあとに自社サービスの提案 | どちらかに寄せて処理 | 用件部分だけ担当へ回し、提案は保留 |
実データでは、本物ほど短い傾向がありました。短い=スパム、という判定は本物を落とします。 長さは判断材料になりません。見るのは長さではなく、そのサイトでしか成立しない固有名詞の有無です。
Cは意外に多く、担当者を消耗させます。1通を丸ごと分類しようとすると詰まるので、用件と提案を切り離して扱うと止まりません。営業部分への返信の型は営業メールの例文パターンと捌き方にまとめました。
そして、どの類型でも寄せ先は同じです。窓口業務では「迷ったら消す」は成立しません。知らない差出人こそが見込み客であり応募者だからです。
私たちが判定ロジックを設計するときも、営業を見逃すのは許容、本物を止めるのは避ける、を最優先にしています。運用に落とすなら次の3つです。
- 判断は3段階にする。本物・営業・保留。二択にすると保留が営業側に流れます。
- 保留は削除せず溜め、1日1回まとめて見る。翌日読むと判断できることが多くあります。
- 消すのは営業だけ、それも一定期間置いてから。営業側に本物が混ざっていた事故は、あとから気づきます。
配信停止リンクの有無で判断するのもやめたほうが安全です。特定電子メール法は、取引関係にある相手などの例外を除き、あらかじめ同意した相手にのみ広告宣伝メールを送れる仕組み(オプトイン方式)と、送信者の氏名・名称や受信拒否の通知先メールアドレスの表示を求めています(総務省)。フォームの入力欄に貼られた配信停止URLは、その表示義務とは別物です。あるから正規、ないから違法、のどちらでもありません。本記事は一般的な情報であり法的助言ではありません。個別の判断は専門家にご相談ください。
自動化するときに置く線
人の目の前に届く件数を減らしたいなら、手順1〜3を自動化して、迷った分だけ人に回すのが現実的です。
Hajik は、フォーム送信の瞬間に内容を判定し、営業と本物を分けます。導入はサイトに script タグを1行。WordPress のプラグイン導入も DNS 変更も、フォームの action の書き換えも不要です。自社サイトを含む複数の実サイトで運用しており、99%+ を遮断して残り約1%は人が判断する前提で設計しています。AI にすべてを任せる想定ではありません。
保管はブラウザ内で暗号化する E2EE のため、Hajik 側は保管データを復号できません。ただし判定の瞬間だけは内容をそのまま AI に渡します(マスクすると本物の申込が誤判定されるため)。その際、クレジットカード番号・マイナンバー・銀行口座・パスポート番号・健康情報の5種はブラウザ内で除去します。保管と判定は別のレイヤです(→セキュリティの考え方)。仕分けの全体像は問い合わせフォームの営業メール対策(実務ガイド)にあります。
よくある質問
差出人のメールアドレスで営業かどうか分かりませんか
分かりません。フォームの入力欄に書かれたアドレスは検証されていない自己申告です。届いた通知メール自体の差出人は自社なので、そこからも情報は取れません。
短い問い合わせは機械的に除外してよいですか
やめてください。実データでは本物ほど短い傾向がありました。一行の在庫確認は、本物の可能性が高い側です。
同じ会社から何度も届く場合、送信元をブロックしてよいですか
一時的な緊急避難ならあり得ますが、恒久ルールにはしないほうが安全です。同じ会社から営業と本物の引き合いが両方届くことは実際にあります。
営業が多いのは、フォームの作り方が悪いからですか
必ずしもそうではありません。実データでは、用途を絞った問い合わせフォームより、目的の広い汎用フォームや採用フォームのほうが営業比率が高くなりました。フォームの性格による差が大きいものです。
まとめ:明日やること
- 「用件の固有性 → 名乗りの整合 → 文面の型 → 送信のされ方」の順番を1枚にして、窓口の席に貼る
- 分類を本物・営業・保留の3段階にし、保留の置き場を今日中に作る
- 直近1か月分の通知を見返し、判断が割れた件数だけ数える(比率が分かれば手当ての規模が決まる)
- 無料診断で自社フォームに何が届いているかを確認する。実際の仕分けは14日間の無料トライアルで試せます